お世話になっている「くらまえ整骨院」のボードに先生方の紹介が貼ってあります。その中に「好きな漫画」という項目があり、私の担当の先生と他の先生も書いている『BECK』という漫画の題名が気になりました。
私にとって『BECK』といえば[JEFF BECK]というギタリストの名前です。学生時代に夢中で聴いていたロックのミュージシャンです。
いろんな音楽を聞いてきましたが、中学3年の頃からは、「ヤードバーズ」「クリーム」といった、少々マニアックなブリティッシュロックに傾いていました。
それらのグループから輩出された[エリック・クラプトン][ジミー・ペイジ][ジェフ・ベック]は後に『3大ギタリスト』と称されましたが、その中でも「孤高の天才」と呼ばれたベックのギターが一番好きでした。
早速、施術中に「好きな漫画の『BECK』って、ロックグループとかの話ですか?」と先生に聞いてみました。
「中学生の男の子が、出会った少年に誘われロックグループを組んで、いろいろな出来事に遭いながら次第に成長して ついには世界を目指す---という話です。」「西山さんも読んでみたらどうですか、面白いですよ。青春時代を思いだしますよ。」
そんな話を聞きながら、私は中学時代の同学年のT君の事を思い出してました。
私の出身校は、中高一貫制の私立男子校でした。校則で「中学までは5分刈りの坊主頭・高校からは自由」と決められていました。当時は長髪が流行っていたので、私の中学でも「頭髪自由化運動」が数年来盛り上がってました。
T君は肩まで髪を伸ばし、学校から何度か警告を受けていました。
そして、頭髪自由化運動の象徴的な生徒として目を付けられていたようです。
彼はギターも本当に上手く、友人たちから「あいつは天才だよ」と言われてました。
フォーク・ロックブームで、誰でもギターを持ち弾いていた時代です。
学園祭で何組も学生バンドが演奏し上手い連中もいましたが、彼のギターは全くレベルが違いました。時々プロのバックバンドで演奏してると噂も聞いてました。
中三の秋の放課後、通りかかった教室の中からギターの音が聞こえてきました。弾いていたのはT君でした。
T君といえばエレキギターで、唸らせたり速弾きで少し攻撃的な演奏のイメージを持っていました。
この時弾いていたのは初めて聞くアコスッティクギターでした。なんて繊細できれいな音色なんだろう、こんな演奏もできるんだと、暫くの間、立ちつくして聞き入ってしまいました。
背後の私に気が付くと、彼は「やあ!」と言って私に話しかけてきました。
それから、ギターや音楽の事などいろいろな話をしました。
坊主頭の中で一人だけ長髪だったせいか、T君には、大人びていて近寄りがたいイメージを持っていました。
でも、話してみると本当に気さくで、何だかずっと昔から仲の良い友人だったようにさえ思えてしまいました。
帰り際、彼に「髪切った方がいいんじゃない?高校に上がれば自由だし、退学になるかもしれないよ。」と言いました。
T君は微笑みながら「そうかもしれないね。」「でもそれじゃあダメなんだ。」と言葉を返しました。
三学期も半ばを過ぎると、もうすぐなので私たちは少しずつ髪を伸ばし始めました。
高校に上がると、まもなく中学生の頭髪も自由化が決まりました。
あれからT君の姿を見かけないと思ったら、退学になっていたのだと聞きました。
頭髪自由化の始まった日、私は髪を切り五分刈りにしました。
ささやかな抵抗でした。
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